青眼と僕と冒険と

僕とブルーアイズが歩いた軌跡のお裾分け

第七章

2018年5月頃よりお付き合いしていた女性との関係は良好でした。

色んなところに行きました。色んな話をしました。

 

その女性とお付き合いをして半年以上が経過しようとしていた頃、母が目の不調を訴え始めました。最初は老眼だろうと思っていたらしいのですが、どうも違うかもしれない、とのことでした。私は母を様々な病院に連れて行きました。しかしどの病院でも確定診断には至らなかったのです。

目の調子が悪かったのですが、「眼球を動かしにくい」という主症状があったため、脳梗塞を疑われた母は、ある病院で上半身のレントゲンやCTを撮りました。

その結果、肺がんが見つかりました。

幸か不幸か、まだ初期のようでした。

母に肺がんの手術を受けることを勧めました。

母は精神的につらかったのでしょう。些細なケンカが増えました。

 

母の診察や入院、手術にかかりきりになっていた私は次第に大切な存在を蔑ろにするようになります。そう。お付き合いしていた女性です。

 

2019年10月頃だったと記憶しています。その女性と連絡が取れなくなったのです。なんの前触れもなかった(気付かなかっただけだと思いますが)ため、私は困惑しました。

仕事が忙しいのだろう。

そう信じるほかありませんでした。困惑と焦りを隠しながら日々を過ごしました。

 

連絡が取れなくなって3週間ほどが経過した時に、「会いに行こう」と思いました。仕事が忙しいのなら差し入れでも…と思ったのです。いいえ。ただ会いたかったのです。

会えなかったときのことを考え、差し入れはスターバックスのギフトカードにして。

電車で最寄り駅まで向かい、そこからは歩きました。

少し高台になっており、そこから想い人の部屋の明かりを確認することができるのです。いつもその明かりを確認してからインターホンを鳴らすのが習慣でした。

部屋の明かりは灯いていました。あぁ、いる。よかった。会える。嬉しくて小走りになったのを今でも覚えています。

カーテンは開いていました。

その隙間から光が漏れていました。

明かりを灯けたまま。

カーテンも開けたまま。

裸の男女がふたり。

見知らぬ男と。

最も愛したオンナ。

 

 

 

 

エロ同人かよ。

 

 

 

 

それ以外の感情はありませんでした。湧いてこなかったのです。

その場から立ち去る気力もなく、ただ立ち尽くしたように思います。

その後のことは覚えていません。

その後、私はきちんと帰ったのかどうか、今も記憶がおぼろげです。

怒り。

悲しみ。

哀しみ?

嘆き。

一切の感情が渦巻いて、そして何もなくなりました。

喜怒哀楽すべてが抜け落ちたような。

いいえ。

ココロ。

魂?

そういった、生きるために必要な「何か」がぽっかりと落ちてしまったような。落としてしまったような。もう見つからない。見つけられない。探し方もわからない、解らない。

なにがいけなかった?

なにがダメだった?

ダレノセイ?

だれの…?

私?

私?

家族?

家族の所為?

私の所為?

 

別れは淡泊でした。

「仕事で忙しい」そんな理由がLINEで送られてきました。もう12月になろうとしていました。会うこともありませんでした。

私は「頑張って。いままでありがとう」と返たような気がします。

それ以外のコトバを持っていなかったのでしょうね。

返信し終えて、涙が流れてくれればよかったのですが。

なにも、ナニモ、なにもなかったのです。

あぁそうかと。ただそれだけでした。

泣ければ少しは楽だったのでしょうか。

涙が流れない程度には、心は壊れてしまったのかもしれませんでした。

反省点はありました。その女性のことを蔑ろにしたのですから。

もっと声を聞けばよかったのです。

ちゃんと耳を傾けるべきだったのです。

ずっと家族のことばかりで、デートの頻度も減っていましたね。

貴女のことを、声を、悩みを、叫びを、聞いてあげればよかったのですね。

私は家族の所為にしました。

お別れしたのはお前たちの所為だと。

この感情(怒り…そう、怒りです)を母に、妹にぶつけました。妹は泣き、母は嘆きました。怒りました。私は家族の縁を切るつもりでいました。そうして自分を終わらせようと考えました。もう生きていても意味はないのですから。

何も変わっていなかったのです。

彼女と出会ったあの時から。

ディープアイズとともに歩むと決めたあの時から。

何が!

人を傷つけない男になる…?

この結果を見ろ!

何人の人を泣かせた?

傷つけた?

お前はやはり変わらないのだ。

お前はここまでなのだ。

お前は。

お前は死ぬべきだ。

もう。

もう。

もう生きていても仕方がないだろ。

死のう。

死のう。

死ね。

もう生きるな。

終われ。

 

ささやきは次第に叫びとなりました。

 誰も人がいない山のうえの住宅街。大阪の夜景を一望できるところ。

私はそこを知っていました。

そして、好きな場所でした。

その場所だけは、誰にも教えませんでした。

そこで死のう。

そこでなら、ひとりでひっそりと逝ける。

終わろう?

 

せめて仕事にひと段落つけてから。

 今でもそうなのですが当時から【誰の迷惑にならないクリーンな死】をモットーに生きている私は、手掛けている仕事を落ち着かせてから死のうとします。

そのプロジェクトが落ち着いたのは2020年の1月上旬でした。

明日。

そう思いながら歩いていたときのことです。

何故でしょうね。

急に古本市場に寄りたくなったのです。

目的なんてありません。

だのに、何故か立ち寄ったのです。

 

古本市場にある遊戯王カードのショーケース。

ショーケースを意味もなく眺めます。何故か眺めないといけない心持ちになったのです。

色とりどりのカードたち。

私の心は少しずつ安寧を取り戻します。

この時だけは心の雑踏が聞こえなかったのです。

聞かずに済んだのです。

その雑踏が過ぎた先にあるのは虚無。

からっぽの空間でした。

心に穴が。静かな穴。

それを感じながらショーケースを眺めます。

 

そして出逢ったのです。

 

一枚の輝き。

眩く輝く青と白。

 

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深淵の青眼龍

 

これが『深淵の青眼龍』との出会いです。